不動産・建設の循環ビジネスを語るとき、「日本はリサイクルが遅れている」という前提から入ると、的を外す。実は逆だ。国土交通省の平成30年度建設副産物実態調査(確定値)によれば、年間約7,440万トン発生する建設廃棄物の再資源化・縮減率はすでに約97%に達している。問題は「リサイクルしているか」ではなく、その中身がコンクリート塊を砕いて路盤材にするような“ダウンサイクル”に偏っていて、建材を建材のまま再び使う“高次のリユース”がほとんど進んでいないことだ。建設業は日本の産業廃棄物排出量の約2割を占め、世界でも建物分野はエネルギー・プロセス起源CO2の約37%、材料採取の約半分を占める巨大セクターである(UNEP/GlobalABC)。本稿は、なぜ高次リユースが進まないのか——その制度とインセンティブの壁を起点に、デベロッパー・ゼネコン・解体業者・建材メーカー・設計事務所の事業機会を整理する。

この記事の独自性
サーキュラーエコノミー記事は「制度全般」、建材メーカーの脱炭素記事は「建材の製造側」を扱う。本稿は「建物という資産をどう循環させるか」に絞り、建材リユース・解体DD・既存ストック改修の事業機会と、日本で進まない実務的な理由に踏み込む。

1. 建物は「未来の素材バンク」——だが日本では“捨てる”が合理的になる

循環の理屈はシンプルだ。建物のライフサイクルでは、建材を製造する段階のCO2(エンボディドカーボン)が大きな比重を占め、運用段階の省エネが進むほどその比率はさらに高まる。だから建材を作り直さずに使い回せれば、CO2も廃棄物も資源消費も同時に減らせる。欧州はこの発想を制度に落とし込み、オランダのMPGやフランスのRE2020のようにエンボディドカーボンを規制し、解体を前提に設計するDesign for Disassemblyや、建材情報をデジタルに記録するマテリアル・パスポートを広げてきた。

ところが日本では、この「使い回し」が事業として回りにくい。理由は技術ではなく経済と制度にある。解体現場では工期が短く、丁寧に部材を取り外す選別解体は通常解体より人件費も時間もかかる。手間をかけて取り出した中古部材も、後述する建築基準法の壁で新築にそのまま使いにくい。結果として、「壊して産廃として出し、コンクリートは路盤材にダウンサイクルする」のが最も安く速い——という構造が温存される。循環ビジネスの機会は、リサイクル率をこれ以上上げることではなく、この「捨てるのが合理的」な構造そのものを変える設計・仕組みづくりにある

2. 誰が費用を負担し、誰が収入を得るのか——インセンティブの非対称

高次リユースが進まない最大の理由を一つ挙げるなら、費用と便益の担い手がずれていることだろう。建材を丁寧に取り出すための選別解体の追加コストを負担するのは解体側だが、その中古建材を安く調達して得をするのは別の新築・改修プロジェクト(デベやゼネコン)だ。解体を発注する側にとって、手間をかけて建材を活かすインセンティブが薄ければ、いくら「もったいない」と言っても動かない。逆に、解体側がリユース建材の販売収入を得られる仕組みや、デベ側が「この建物から出た建材を次の物件で使う」とライフサイクルで紐づける座組みがあれば、初めて経済が回る。RotorDC(ベルギー)やMadaster(オランダ)のような海外プラットフォームが効いているのは、技術もさることながら、この費用と収入のマッチングを成立させたからだ。日本で事業を組むなら、まずこの「誰が払い、誰が得るか」を設計の中心に据える必要がある。

3. プレデモリッションDD——解体前に「資産」を棚卸しする

その入口になるのが、欧州で標準化しつつあるプレデモリッションDD(解体前デューデリジェンス)だ。解体に着手する前に、建物の建材インベントリーをBIMや3Dスキャン・現場調査で作成し、どの部材がリユース可能か、リサイクルか、産廃かを分類する。同時にアスベスト・PCB・PFAS含有といった有害物質を特定し、リユース建材の市場価値を評価して、選別解体の手順まで設計する。M&AのサステナビリティーBDDと発想は同じで、壊す前に「この建物にどんな資産と負債が埋まっているか」を見える化する作業だ。うまく回せば、廃棄物を相当程度削減でき、解体コストの最適化やリユース収入、環境認証の取得につながるケースがある(削減幅は建物の構造・用途で大きく変わるため、効果を一律の数値で語るのは避けたい)。

4. 建材リユース——鉄骨・コンクリートで効く「証明」の壁

建材リユースは、新規調達に比べてエンボディドカーボンと材料コストを抑えられる場合があり、木材(構造材・造作材)、鉄骨、レンガ・タイル、ガラス、建具、設備機器、内装材と幅広い部位で機会がある。ただし、ここでも「試験すれば再利用可能」で話を終えてはいけない。鉄骨のリユースで実務上ネックになるのは、強度そのものより“証明”だ。再び構造材として使うには、その鋼材がどの製鋼ロットで、降伏点がいくつかというトレーサビリティを示し、JIS適合を再認定し、不具合時の保証スキームを用意する必要がある。これが整わないと、設計者は瑕疵責任を負えず採用に踏み切れない。コンクリートも同様で、再生骨材は用途が限られる。だからこそ、建材データベースとマテリアル・パスポートで「素性の証明」を最初から建物に持たせておくことが、将来のリユースを可能にする鍵になる。RotorDCやMadaster、国内では大手ゼネコンの解体材活用プログラムや古材専門業者が、この証明と流通の仕組みづくりに挑んでいる。

5. 日本で必ず当たる、建築基準法と廃棄物処理法の壁

海外事例を日本にそのまま持ち込もうとすると、二つの法制度に必ず突き当たる。一つは建築基準法37条(指定建築材料)だ。主要構造部に使う建材は、JIS適合品か国土交通大臣認定品であることが求められるため、来歴の証明できない中古建材を構造部に使うのは容易でない。リユース材が活きるのは、まず非構造・内装・外装といった、基準法上のハードルが低い部位からになる。もう一つは廃棄物処理法で、解体で出たものが「有価物」なのか「廃棄物」なのかの判定、マニフェスト(産業廃棄物管理票)の運用、古材を扱う際の許認可(建設業・宅建業上の取り扱い)が、事業設計に直接効いてくる。中古建材を「商品」として流通させるのか「産廃の有効利用」として扱うのかで、必要な許認可も責任の所在も変わる。海外プラットフォームの真似をする前に、この国内の線引きを設計に織り込んでおくことが、後の手戻りを防ぐ。

6. 既存ストック改修——人口減少時代の本命市場

新築から既存ストックの改修へと、市場の重心は確実に移っている。住宅リフォーム市場は年間7兆円規模とされ(矢野経済研究所の調査による目安)、非住宅を含む既存ストックの活用は、人口減少と建築コスト高のなかで中長期に拡大が見込まれる。改修には、断熱・省エネ・バリアフリーといった機能改善、オフィスから住宅・ホテルへの用途変更(コンバージョン)、耐震・長寿命化、意匠改修があり、いずれも解体材の再利用や低エンボディドカーボン建材の選定、ZEB/ZEH化による運用CO2削減と組み合わせられる。新築開発に比べると一般に利益率は低めになりやすいが、市場の拡大基調と、長期保有による運用収益がそれを補完しうる(収益性は物件取得コスト・改修ノウハウ・テナント獲得力で大きく変わる)。

7. プレイヤーの動きと、自治体が突きつける要件

大手ゼネコンは、CO2を吸収するコンクリート(大成建設のT-eConcrete、鹿島のCO2-SUICOM、大林組のCO2吸収コンクリート)や解体材の活用、CLTによる中大規模木造といった技術で動き、大手デベロッパーも、大規模再開発や既存ストックの改修に低炭素建材や建材再活用の視点を組み込み始めている。海外ではオランダのPark 20|20やEUのBAMB(Building As Material Banks)プロジェクトが先行例だ。そして見落とせないのが自治体の動きで、東京都や横浜市は脱炭素・循環の戦略を掲げ、公共調達の要件や補助、条例を通じて事業者に具体的な対応を求め始めている。海外都市の宣言を眺めるより、自社が事業を行う自治体が「何を調達要件にし、何に補助を出すか」を押さえるほうが、実務には直結する。

こんなときに、Sasla

・自社の不動産・建設事業の循環化戦略を業界経験者と整理したい
・プレデモリッションDD導入の事業性検討
・建材リユース市場参入の論点整理(プラットフォーム、認証、保証、法規制)
・既存ストック改修(リノベーション)の事業設計
・Design for Disassembly設計の論点整理
・サーキュラー建築認証取得の支援

Saslaには、大手ゼネコン・デベロッパー出身者、解体業界の実務経験者、建材メーカーのサーキュラー担当、サーキュラー設計事務所のアーキテクト、欧州サーキュラー先進事例の調査経験者、建設業界のサステナビリティアドバイザーが登録しています。1時間のスポットインタビューから本格的なリサーチ・伴走支援まで、フェーズと予算に応じて活用可能です。

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よくある質問(FAQ)

Q. 日本はリサイクル率が高いのに、なぜ循環ビジネスの機会があるの?

再資源化率は約97%と高いものの、その大半はコンクリート塊を路盤材にするようなダウンサイクルで、建材を建材のまま再び使う高次のリユースはほとんど進んでいないためです。機会は「リサイクル率を上げる」ことではなく、「ダウンサイクルから高次リユースへ」移行させる設計・流通・保証の仕組みづくりにあります。

Q. リユース建材を構造部に使えますか?

容易ではありません。建築基準法37条により主要構造部の建材はJIS適合品か大臣認定品が求められ、来歴を証明できない中古鉄骨等を構造部に使うにはトレーサビリティ(製鋼ロット・降伏点)の証明とJIS再認定、保証スキームが要ります。まずは非構造・内装・外装など、基準法上のハードルが低い部位から始めるのが現実的です。

Q. 建材リユースが事業として回らない一番の原因は?

費用と便益の担い手のずれです。選別解体の追加コストは解体側が負担する一方、安い中古建材で得をするのは別の新築・改修プロジェクトという非対称があります。解体側がリユース販売収入を得る仕組みや、デベ側がライフサイクルで建材を紐づける座組みを設計の中心に据えないと、経済が回りません。

Q. 解体業者が循環ビジネスに参入する論点は?

選別解体の技術、建材リユース・プラットフォームとの連携、有害物質処理のノウハウ、建材スキャン等のICT活用です。事業の自己定義を「廃棄物処理」から「資源循環マネジメント」へと転換し、廃棄物処理法上の有価物/廃棄物判定や許認可を踏まえて、リユース材を商品として扱う体制を整えることが鍵になります。

Q. デベロッパーがエンボディドカーボンに対応する経済的メリットは?

テナント企業(特に欧米外資)の入居要件、グリーン融資の優遇、認証取得(LEED・CASBEE)によるブランドと資産価値の維持などです。EUのCSRDの開示対象になる場合は、サプライチェーン全体の排出として対応が必要になります。

「壊して捨てる」が一番安い、という構造を変える

建物を「使い捨ての資源」から「未来の素材バンク」へと捉え直す——その理念は正しい。だが日本でそれを事業にするには、理念より先に、なぜ今は「壊して捨てる」のが一番安くて速いのかという構造を直視する必要がある。費用と収入の非対称、建築基準法37条と廃棄物処理法の線引き、来歴を証明する仕組みの不在——ここを一つずつ解いていくことが、循環ビジネスの実装そのものだ。2026〜2030年は、欧州規制の波及、エンボディドカーボン規制、人口減少下の既存ストック活用が同時に進む。デベ・ゼネコン・解体・建材・設計のどの立場でも、自社がこの構造のどこを変えられるのかを、現場を知る専門家との対話で見極めておきたい。