サステナビリティー開示の議論は、「何を開示するか」から「その開示は信頼できるのか」という次の段階に入った。財務情報に監査があるように、サステナビリティー情報にも独立した第三者による保証(アシュアランス)が求められる——その制度設計が、金融審議会のワーキング・グループ報告(2026年1月8日公表)によって、ついに具体的な骨格を持った。本稿では、確定しつつある義務化スケジュールと制度の要点を、一次資料に基づいて整理し、企業がいま着手すべき準備を示す。結論を先取りすれば、開示が始まる企業にとって保証は「その翌年」の話であり、準備のリードタイムを考えれば、もはや遠い未来ではない。

1. なぜ開示の次に「保証」なのか

サステナビリティー情報は、いまや投資家が企業価値を評価する重要な判断材料になっている。しかし、その情報が客観的な裏付けを欠いていれば、投資家は安心して意思決定に使えない。財務諸表が監査を経て初めて信頼されるのと同じ構造だ。SSBJ基準に基づく開示が義務化されるなかで、開示の信頼性を担保する仕組みとして第三者保証が制度化される——これが今回の議論の根底にある問題意識である。

金融審議会は「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」を設置し、2025年7月17日に中間的な論点整理を、2026年1月8日に報告を公表した。保証に関する専門的な論点は専門グループを別途設けて審議されており、報告は日本の保証制度の基本設計を示すものとなっている。

2. 義務化スケジュール——「開示の翌期から保証」

最も重要なのは時間軸だ。保証の義務化は、SSBJ基準による開示の義務化と連動し、開示が始まった企業に対して、その翌期から保証を義務付けるという設計になっている。対象は東京証券取引所プライム市場の上場企業で、時価総額の大きい企業から段階的に適用される。

SSBJ開示と第三者保証の段階適用スケジュール

時価総額3兆円以上(68社・カバレッジ54.1%):開示 2027年3月期 → 保証 2028年3月期
3兆円未満〜1兆円以上(累計171社・72.5%):開示 2028年3月期 → 保証 2029年3月期
1兆円未満〜5,000億円以上(累計284社・80.8%):開示 2029年3月期 → 保証 2030年3月期(適用時期は引き続き検討)
5,000億円未満:今後検討

判定に使う時価総額は、ある一時点の値ではなく過去5事業年度末の時価総額の平均値とされる。一時的な株価変動で対象が出入りしないようにする配慮だ。自社がどの区分に入るかは、この5年平均で逆算できる。最初の保証義務化が2028年3月期である以上、対象企業にとって準備は「数年後」ではなく「今期から」の課題になる。

3. 「限定的保証」とは何か

保証と聞くと、財務諸表監査と同じ厳格さを想像するかもしれないが、当面はそうではない。報告は、保証水準を「限定的保証(limited assurance)」とし、より厳格な「合理的保証(reasonable assurance)」への移行は当面検討しないと明言している。企業に過度な負担を課さず、円滑に導入することを優先した判断だ。

限定的保証と合理的保証の違いは、結論の述べ方に表れる。限定的保証は手続きを限定したうえで「重要な虚偽記載に気づいた事項はない」という消極的な形式で結論づける。一方、合理的保証は財務諸表監査に近い水準の手続きを行い「適正に表示されている」と積極的に結論づける。当面は前者にとどまる、ということだ。

保証の範囲も限定される。適用開始から2年間は、Scope1・2の温室効果ガス排出量に加え、ガバナンスとリスク管理が対象とされ、3年目以降の範囲は国際動向を踏まえて検討される。報告には「将来的には開示情報全体を保証範囲とすべき」との委員意見も併記されており、水準は限定的保証で固定しつつ、範囲は段階的に広がる方向にある。なお、開示の初期2年間はサステナビリティー情報を有価証券報告書と同時でなく後から提出できる「二段階開示」の経過措置も設けられる。

4. 誰が保証するのか——監査法人に限定しない「登録制」

日本の制度設計で国際的にも注目されるのが、保証の担い手をめぐる判断だ。財務諸表監査は監査法人・公認会計士の独占業務だが、サステナビリティー保証は監査法人や公認会計士に限定しない方針が打ち出された。国際基準に整合した保証を実施できる者であれば、監査法人か否かを問わず担い手になれる、という「職業限定なし(profession-agnostic)」の設計である。

背景には、将来プライム全体へ対象が広がったときに保証の担い手を十分に確保する必要がある、という現実的な事情がある。ドイツが監査法人に限定する案を採るなか、日本は非限定を選んだ。ただし誰でもよいわけではなく、専門知識・経験、十分な業務従事者、品質管理部門の設置、財産的基礎などを要件とする登録制を導入する。

保証の担い手に課される主な規律

登録制:専門知識・経験、業務従事者の配置、品質管理体制、財産的基礎などを要件に登録
行為規制:業務執行責任者のローテーション、利益相反の禁止(作成支援した企業への同時保証の禁止)、守秘義務
エンフォースメント:虚偽保証への課徴金(過失は報酬相当額、故意は報酬相当額×1.5)
監督:当面は金融庁が直接検査・監督

公認会計士資格は必須とされないが、財務情報との関連を検証する能力は重要とされ、研修や外部専門家の活用で補うことが想定されている。将来的には、財務とサステナビリティーの双方をカバーする資格試験の可能性にも報告は言及している。発注する企業の側から見れば、「監査法人以外も含めて、誰に保証を依頼するか」という新しい選択が生まれることになる。

5. 準拠する保証基準

保証の品質を担保するのは、国際的に整合した基準だ。中核となるのが、国際監査・保証基準審議会(IAASB)が2024年11月に公表したISSA 5000(サステナビリティー保証の一般的要求事項)である。限定的・合理的の双方に適用でき、担い手の職業を問わず、あらゆるサステナビリティー報告の枠組みに対応する包括的な基準で、2026年12月15日以後に開始する期間から発効する。

あわせて、保証提供者の倫理・独立性を定めるIESSA(2025年1月公表)も整備された。国内では、日本公認会計士協会(JICPA)がISSA 5000に準拠した「サステナビリティ保証業務実務指針5000」を2026年3月18日に公表しており、実務の土台が整いつつある。日本の保証基準そのものは企業会計審議会が審議して定める。

6. 海外との比較

日本の制度を国際的な文脈に置くと、その位置づけがよく見える。

EUでは、CSRD(企業サステナビリティ報告指令)が当初から限定的保証を義務付けている。当初予定された合理的保証への引き上げ規定は、2025年の簡素化(オムニバス)でコスト抑制のため削除された。つまりEUも、日本と同じく「限定的保証で当面固定」へと収斂している。一方米国では、連邦のSEC気候開示規則が撤回手続きに入り、連邦レベルの開示・保証義務は後退した。ただしカリフォルニア州はSB 253で独自にScope1・2・3の開示を義務付け、保証もScope1・2について2026年に限定的保証、2030年に合理的保証へと段階的に引き上げる。連邦が退く一方で州が前進するという、ねじれた構図になっている。

こうして並べると、保証水準を限定的保証で当面固定する日本の方向性は国際的な潮流と整合している。そのうえで、担い手を監査法人に限定しない登録制とした点は、日本独自の制度的特徴といえる。

7. 企業が今から備えるべきこと——本当の壁は「データ品質」

保証対応で実際に企業が直面する最大の壁は、制度の理解ではなくデータの品質と期限である。有価証券報告書の提出期限は事業年度終了後3か月以内とされ、本ワーキング・グループでも原則延長しない方向で議論されている。GHG排出量の集計・作成には時間がかかるため、この短い期間に算定と保証を完了できるかが、最も切実な実務課題になる。報告自体も、欧州企業が用いる「見積りの利用」や「重要性に基づく測定範囲の限定」といった工夫を参考として挙げている。

したがって、保証を見据えた準備は次のような前向きなTODOに落とし込める。第一に、Scope1・2の算定根拠となる一次データのトレーサビリティを確保し、証憑を保管すること。第二に、財務報告の内部統制(J-SOX)に類するサステナビリティー情報版の内部統制を整備すること。第三に、経理・サステナビリティー・IRの各部門が横断するデータ収集フローを早期に立ち上げること。第四に、保証提供者を早めに選定し、現状の準備度合いを評価しておくことだ。日本監査役協会も「直ちに対応を要する事項はない」としつつ、各社で影響が大きく異なるため準備状況の確認が必要だと注意を促している。

8. まとめ

サステナビリティー情報の第三者保証は、プライム上場企業を対象に、開示の翌期から段階的に義務化される。時価総額3兆円以上の企業では2028年3月期がその起点だ。当面は限定的保証で、範囲もScope1・2とガバナンス・リスク管理に絞られるが、担い手は監査法人に限定しない登録制となり、ISSA 5000という国際基準が土台になる。制度の輪郭はもう見えている。

残された時間で問われるのは、開示データそのものの品質と、それを3か月以内に整え保証を受けられる体制だ。保証は一夜にして整うものではない。算定根拠の整備、内部統制、部門横断の体制づくりを、開示が始まる前から積み上げておくことが、円滑な保証対応の唯一の近道である。制度の読み解きから自社の準備計画への落とし込みまで、専門的な知見が必要な場面では、外部の力を組み合わせることを検討したい。