「サステナビリティーの専属担当を採りたいが、なかなか採れない」「採れても年収が高くて踏み切れない」——Sasla運営代表として中堅・中小企業の相談を受けるなかで、採用に関するこの種の悩みは年々強くなっている。結論から言えば、採用が難しいのは担当者の努力不足ではなく、需給そのものが構造的に逆転しているからだ。本稿では、採用市場のデータと年収相場を押さえたうえで、「そもそも採用が最適なのか」を問い直し、業務委託・顧問・月額サブスクを含む現実的な選択肢を、費用とスピードの両面から比較する。

1. 「採れない」のは気のせいではない——需給データで見る採用難

まず、感覚ではなく数字で現状を確認しておきたい。日本経済新聞の報道によれば、サステナビリティー人材の求人数は、2023年時点で数年前の8.5倍に膨らんでいた。求人の中心は従業員1,000名以上の大手であり、資金力のある企業が先に経験者を囲い込む構図になっている。

需給のギャップは世界共通だ。LinkedInの「Global Climate Talent Stocktake 2024」では、グリーン人材への需要が前年比11.6%増だったのに対し、供給の伸びは5.6%にとどまった。このペースが続けば、需要と供給の乖離は2050年までに大きく拡大すると試算されている。同調査では、サステナビリティー領域の採用率が全職種平均を5割以上も上回っており、「スキルさえあれば引く手あまた」という売り手市場が裏付けられている。

採用側にとって、より厳しい現実もある。求人の多くが「複数年のサステナビリティーマネージャー経験」を要件とするため、条件を満たす人材は限られ、現職経験者には複数社からオファーが殺到する。採用を狙えば狙うほど採れない、という袋小路に陥りやすい構造だ。

2. 年収相場——職位別に見る

では、採れたとしていくらかかるのか。人材エージェントが公表する転職市場データから、職位別の年収レンジを整理する。いずれも転職市場での実勢であり、政府統計ではない点は前提として押さえておきたい。

サステナビリティー人材の年収相場(転職市場データ・2025〜2026年)

推進担当(管理職手前):800万〜900万円
管理職(ピープルマネジメント含む):1,200万円以上
ESGコンサル(グレード別):アソシエイト700万〜1,000万円/マネージャー1,200万〜1,800万円/ディレクター2,000万円以上
役員クラス(サステナビリティーを含むCxO):2,000万円超の例も
ESGアナリスト(調査・運用部門):750万〜1,400万円

注意したいのは、これが「年収」であって「採用にかかる総コスト」ではないことだ。年収に社会保険料(おおむね年収の約1.15倍)と採用エージェント手数料(初年度のみ年収の30〜35%)を加えると、推進担当クラスでも初年度の総コストは1,000万円を優に超える。固定費としてこの水準を負担できるかが、採用判断の最初の関門になる。

3. 求められるスキルが「広すぎる」という問題

もう一つ、採用を難しくしている本質的な理由がある。サステナビリティー担当に求められる業務範囲が、一人の人材でカバーするには広すぎるのだ。

実際の求人を見ると、法定開示(有価証券報告書・コーポレートガバナンス報告書)、任意開示(統合報告書・サステナビリティレポート)、マテリアリティ特定と戦略策定、国内外の規制対応、ESG評価機関への対応、GHG排出量算定、社内浸透・研修、ステークホルダー対応までが一気通貫で期待されている。加えて、グローバル企業ではTOEIC750〜850点以上の英語力を要件とする例も多い。CDP・TCFD・TNFDといった評価機関対応の経験や、コンサルティングファーム出身であることが高く評価される傾向もある。

これだけの領域を一人に求めれば、該当者が市場にほとんど存在しないのは当然だ。そして仮に採用できても、次の問題が待っている。

4. 採用の「隠れたコスト」——1人に背負わせるリスク

採用の本当のリスクは、年収という固定費だけではない。立ち上げ初期は「何をやるか」自体が定まっていないことが多く、フルタイムの業務量が見通せないまま固定費だけが先に立つ。さらに、広範な領域を一人で抱えることは、属人化と過負荷を生む。

この点を象徴するデータがある。サステナビリティー実務者を対象とした調査(オックスフォード・ブルックス大学らによる159人調査)では、回答者の62%が燃え尽き(バーンアウト)を経験していた。少人数体制に業務が集中する構造が、担当者を疲弊させているのだ。「ようやく採用できた一人が、過重負担で離職する」というのは、中堅・中小企業で実際に起きているリスクである。採用は、採れない・高い・続かない、という三重の難しさを抱えている。

5. 「採用以外の選択肢」を費用とスピードで比べる

ここで視点を変えたい。本当に必要なのは「正社員を一人雇うこと」だろうか。多くの中堅・中小企業にとって必要なのは、必要なときに、必要な領域の専門知見にアクセスできる状態であって、雇用契約そのものではない。外部活用の主な選択肢を、採用と同じ土俵で並べてみる。

「採用」vs「外部活用」の比較

正社員採用:年間コスト 実質1,000万円超/立ち上がり 数ヶ月〜(経験者は採りにくい)/1人で全領域は属人化・過負荷/離職で知見が消失するリスク
業務委託・顧問:月20万〜50万円(顧問)〜月70万〜120万円(実働委託)/即日〜数週間で着手/契約変更が柔軟
月額サブスク型:月30万円〜/最短数日〜2週間で開始/領域別の専門家を必要なだけ組み合わせ/月単位で解約可能

外部活用が採用に勝るのは、「1人で全領域」という無理を、「領域ごとに必要な専門家を組み合わせる」発想で解ける点にある。開示はこの専門家、GHG算定はこの専門家、人権対応はまた別の専門家、というように、必要な知見を必要なときだけ呼べる。属人化も、過負荷も、離職リスクも構造的に回避できる。費用の詳しい比較は、ESGコンサルの費用相場と選び方もあわせて参照いただきたい。

6. 締切は決まっているのに、人は採れない

もう一つ、外部活用の価値を際立たせる要因が「時間」だ。SSBJサステナビリティ開示基準の段階適用により、2027年3月期に時価総額3兆円以上のプライム企業から開示が義務化され、対象は2028年3月期に1兆円以上、2029年3月期に5,000億円以上へ広がる。この開示はScope3を含むため、対象企業の取引先である中堅・中小企業にも、排出データ整備の要請が確実に降りてくる。

つまり、対応の締切は外部要因によってすでに決まっている。一方で、前述のとおり経験者の採用には数ヶ月を要し、しかも採れる保証がない。「締切は固定なのに、人は採れない」というミスマッチこそが、即日〜数週間で立ち上がる外部活用の価値を最も鋭く際立たせる。まず外部の知見で走り出し、業務量と方針が固まった段階で採用の判断をする——この順番が、リスクを抑えた現実的なアプローチになる。

7. どう判断するか——段階で考える

採用と外部活用は、二者択一ではなく段階の問題だと捉えるとよい。判断の目安は次のとおりだ。複数の本格プロジェクトが恒常的に並行し、長期的にサステナビリティー部門を組織として作る方針が固まっているなら、採用(内製化)に踏み切る価値がある。逆に、これから立ち上げる段階で業務量が不安定なら、まず外部活用で走りながら、必要な領域を見極めていく方が合理的だ。

実務では、「月額サブスクで日常の論点整理と推進体制づくりを進めつつ、2〜3年かけて専属採用の準備をする」「採用した一人を、外部の専門家ネットワークで補完する」といった組み合わせが最もうまくいく。採用とは、固定費を負う重い意思決定だからこそ、外部活用で土台を固めてから判断したい。

サステナビリティー人材の採用に迷っている中堅・中小企業の方は、「採るか・採らないか」の前に「いま必要な知見は何で、それは雇用でしか得られないのか」を一度問い直してみてほしい。その整理から、一緒に伴走することもできる。

著者:今井 健太郎(Kentaro Imai)
株式会社KI Strategy 代表取締役 / 情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教授。早稲田大学政治経済学部国際政治経済学科卒。野村総合研究所を経て2016年に株式会社KI Strategyを設立。事業会社の経営戦略・中期経営計画策定支援、新規事業開発支援を専門とし、サステナビリティーとイノベーションを横断する実務支援を提供。サステナビリティー専門家プラットフォーム「Sasla(サスラ)」の運営代表。近著『クリエイティブ・イノベーションの道具箱』。
※本稿の求人動向・年収相場は、日本経済新聞、LinkedIn「Global Climate Talent Stocktake 2024」、人材エージェント各社の公開データ、関連調査を基に2026年5月時点で整理したもの。年収は転職市場での実勢であり、実際の水準は企業規模・業界・経験により異なる。